和歌山市で「よい移民」トークイベントに参加してきました!
書籍「よい移民」の紹介は、こちらのブログにまとめています→21人の人生の物語~「よい移民」刊行トークイベントレポ
今回の会場は、和歌山市の本屋プラグ。
新刊・古書問わずおもしろい本をたくさん扱っている本屋さんです。カフェスペースもあります。
イベントの話者は、「よい移民」を翻訳され、人種と移民の問題を研究されている栢木(かやのき)清吾さん、
そして社会学を研究し、サイト「HAFU TALK / ハーフトーク」を運営しているケイン樹里安さん。
(ケインさんは激しく動きながらお話されるので写真のほとんどがブレていました…)
「よい移民」を企画・編集されたフリーの編集者・太田明日香さんも参加されていました。
本屋プラグの名物店長・嶋田さんの進行でイベントが始まります。
「よい移民」は、イギリスに住む移民2世・3世の作家や役者、クリエイターら21人が自身の体験をつづった、読み物としても面白いエッセイ集です。
「よい移民」というタイトルには「イギリス生まれ・イギリス育ちなのに、いつまで移民と呼ばれなければいけないのか」という皮肉も込められています。
今回は、日本生まれで父親がアメリカ人であるケインさんの実体験を交え、本の内容から発展した「今の日本はどうか」という興味深い話が聞けました。
以下、私のメモから印象に残った部分を抜粋して記録します。
ケインさん:サイト「ハーフトーク」は、ハーフに限らず海外にルーツがある人が困ったことなどをウェブ上にアップしていく活動として始めた。クラウドファンディングで気長に支援を募ろうと思っていたら、すぐに支援が集まり驚いた。
世間が思うところの理想的なハーフ、「よい移民であること」の問題を、多くの人が気にはしていたが口にしてこなかったのではと思う。支援者は海外ルーツの子を持つ親や教員、予備校の先生が多い。
先生たちは子どもに起こっていることが、いわゆるいじめなのか人種差別的ないじめなのか分からない。そういうときにどうすればいいかと聞かれる。一方当事者は、自分たちが嵌ったのと同じ「罠」に嵌めたくないという気持ちもあるのでは。
僕は自分が教える授業の自己紹介で、ハーフという言葉を使っている。日本でしか使われない言葉だが、通りがいいので。最近はミックスルーツと言ったりする。
しかし、英語で「ミックス」は動物や物に使う言葉という印象もある。また「ピュアに対してのミックス」という考え方はナチスっぽいという人もいる。
栢木(かやのきさん):イギリスではそういったことは言葉にしないのが現代のコンプライアンス。混血という言葉も日本ではまだ使われることがあるが、「よい移民」の翻訳では使ってない。日本では、移民やその子どもを話題にする時の語彙があまりない。翻訳は言葉を作っていく作業なので、その点も留意しながら訳した。
世の中にロールモデルがいなかった子ども時代
ケインさん:ふだん、こういう本を読むときは「当事者目線」と「研究者目線」を持とうと意識するが、今回は研究者目線で読めなかった。
読んでいて自分の経験とシンクロして胸がつぶれそうになることがあり、何度か本を置いた。忘れていた記憶がフラッシュバックしそうになった。
この本を媒介して何がしんどかったのか言語化できる、整理できるようになった。イギリスと日本では人権的な背景が違うが、同じ経験をしたことがあるなと思った。
「よい移民」で、海外ルーツの子どもが物語を書くと白人しか出てこないエピソードがある。すごくリアルだと思った。
自分も子どもの頃、児童文学の「ズッコケ三人組」が好きだったが、キャラクターに自分を投影できない。読んだ後「もし自分がそこにいたら」と空想するのが面白かった。
感情移入しようがなかったから、ふつうに投影できないものとして読んでいた。モニター越しに読んでいる感じ。アニメや映画、ドラマを見ててもそう。
自分にとってのロールモデルはウエンツ瑛士しかいなかった。受け入れられるキャラ設定を彼から学んでいた。
今、研究の世界にも「ハーフ枠」というのがある。それで当事者代表としてテレビなどに呼ばれるようになった。そんな自分を見ている海外ルーツの子どもが絶対いると思う。
栢木さん:海外ルーツの人にとって、日本社会にロールモデルが少ない。色んな人がいていいじゃないか、と思えるロールモデルが多いのが多様性。自分に似てる人が目に見える形でいればいいが、そうはなっていない。
ケインさん:「よい移民」は、筆者たちの実体験を描くことで、日常のつっかかりをうまく言語化してくれている。自分だけじゃなかったんだ!と気づける。「ハル・ベリーは不自然なアフリカ訛りで喋っている」とか「Xメンの黒人ヒーローは黒人っぽい演技を求められている」とか。観客もそれに気づいて気持ち悪さを感じている。
日本のテレビでもタレントはハーフっぽい喋り方を求められるが、そうしないと役がもらえなかったりするから。僕もテレビで話すと「流暢ですね!」と言われる。(※ケインさんは日本生まれ・日本育ち)
日本はいつまで「受け入れる側」なのか
栢木さん:日本にいる海外ルーツの人に関しては、日本社会の枠を外して考える必要がある。僕が以前住んでいた神戸の山の方とかだと、オールドカマーとニューカマーが混ざって社会を作っていっている。
例えば、華僑のいる場所にやって来る人は、日本人社会よりまず華僑の社会に馴染めるかが優先。古くから住んでいる人と新しく来た人が助け合い、すでに日本人の知らないところでコミュニティは出来ている。日本人は常に受け入れる側という考え方があるが、その枠の外でまわっている世界がある。
神戸は昔から外国人が多いが、外国人排斥の暴動は起こってない。しかし多様性教育がじゅうぶんに行き届いているかというと、そうでもない。街で人種差別的な言葉を聞くこともある。しかし、個人の差別感情と排斥運動が起こることとは別問題。
理解しようとしなくてもいい。理解しろというのは危険。理解しなくても、嫌いあっていても共存は可能。差別意識はあっても紳士的に接することができる状態に社会を押さえておくことが大事。
ケインさん:人種差別を個人に帰属していくのはよくない。レイシストとそうでない人に分けるのではなく、仕組みの問題としてどうしていくか。
「移民が来るから社会が悪くなる」という分かりやすいストーリーは違う問題を隠している。
栢木さん:移民にとって生きにくい社会は、みんなにとって生きにくい社会。移民というと低賃金で雇うイメージがあるが、最低賃金は日本人も同じ。移民の賃金が安い=日本人の賃金も安いままということ。
イギリスでは、ときにアジア系女性に男性の性的願望が向けられる。でも、それは日頃から男性が抱いている願望の、誇張されたはけ口になっているだけ。移民だけでなく社会全体の問題。
「よい移民」を読んで、今まで我々が知っていた「移民の語り口」はごく限られたものだったんだと思った。筆者が自己紹介しないことも重要。何系の人間かを明かさない。生まれや属性に評価の基準を置かれたくない。
イギリスでもそうだったが、日本でも移民の子どもたちが読める本がないので、そういう子が読めればいいと思いながら翻訳した。高校生ぐらいなら読めると思う。若い世代に紹介してほしい。
イベントでは、本屋プラグの熱心なお客さんたちから様々な感想、質問が飛び出し、気づけば2時間半が経っていました。
移民研究の栢木さんと社会学研究のケインさん、専門家同士の対談は多くの気づきを与えてくれました。
今回のイベントは、「よい移民」の執筆者の動画が流され、文字通り本人たちの肉声が感じられたのも良かったです。
中でも、ハリウッドで活躍する俳優リズ・アーメッドが、空港でいつも取り調べをうける体験をヒップホップソングにしたこちらのMVがかっこよかった。よかったら見てみてください。
「よい移民」トークイベントは、次回は8月31日に東京で(詳細)、9月28日に福岡で(詳細)開催されます。今後も関西等でイベント予定があるそうなので、気になる方は編集の太田明日香さんのTwitterをチェックしてみてください。
また、10月にはケイン樹里安さんが編著の「ふれる社会学」が刊行されます。こちらも興味ある方はケインさんのTwitterをチェックしてください。(※2019年当時の情報です)
そしてもちろん、「よい移民」をよろしくお願いします!私は一切、制作に関わっておりませんが(笑)、とても良い本です。
※追記:ケインさんが編著の社会学の入門書「ふれる社会学」、ぜひ目次だけでも見てみてください。それぞれの章が分かりやすい言葉で簡潔にまとめられているので、興味あるテーマから少しずつ読んでいくのもアリだと思います。
また、栢木さんが翻訳したイギリスの21人の移民の物語、「よい移民」もおすすめです。
「ふれる社会学」も「よい移民」も、今後も関連イベントが続くそうですので、私も出来る限り参加してふれていこうと思います!
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