イギリスで暮らす「移民と呼ばれる人々」の体験を集めたエッセイ集、「よい移民」。
イギリスでベストセラーになったこの本の、日本語版刊行記念トークイベントに行ってきました!場所は、ジュンク堂書店・難波店です。
「よい移民」は、2016年にイギリスで発行されました。編者は、ロンドン生まれのインド系作家ニケシュ・シュクラ。
イギリスには移民2世・3世の才能あるクリエイターが多くいるのに、彼らに仕事のチャンスが与えられないことから「移民の作家や表現者が自身の体験をつづったエッセイ集」を企画。
クラウドファンディングで資金を募ると、ハリー・ポッターの著者J・K・ローリングが賛同したことでも話題となり3日で目標を達成しました。
タイトル「よい移民」には、こんな意味が込められています。
日本にも多くの移民がやってきている今、他人事ではない問題です。夫がメキシコ人の私にとっては、まさに家族の問題でもあります。
また、「世の中の役に立っている人=よい人」「世の中に迷惑をかけている人=悪い人」という論調は、残念ながら日本でも見られます。「生産性」というやつですね。
21人分の人生のエッセイということでボリュームがありますが、プロの作家や劇作家、世界的に活躍する役者など多彩な人々が執筆しており、文学作品としても面白い1冊となっています。kindle版があるので、移動中などに少しずつ読み進められるのも手軽でいいなと思いました。
イギリスでベストセラーとなった本作、日本語版が7月末に発売され、これから関連イベントが随時おこなわれます。
その第一弾となったのが、大阪・難波でのトークイベントでした。
話者は企画・編集の太田明日香さんと、翻訳の栢木(かやのき)清吾さんです。
フリーの編集者である太田さんは、以前カナダに住んでいた時「少しずつ読み進められる英文のノンフィクション」を探していて、原著の「The Good Immigrant」を発見。帰国後、日本語版書籍化の企画を創元社に持ち込み、翻訳を栢木さんに依頼しました。
栢木さんのプロフィールは以下の通り。
翻訳者、研究者。1979年大阪生まれ。
神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。
専門分野は、近現代イギリス史、「人種」と移民をめぐる社会的・文化的問題。(「よい移民」訳者紹介より引用)
栢木さんは、移民問題の専門家。そのため、本作に出てくる専門用語や文化的な背景を持つ言葉も丁寧に訳されていて、イギリス社会や移民問題に詳しくない人でもスッと入れる内容になっています。
太田さんは「この本は文学作品でもあります」とおっしゃっていて、おもしろく読みやすい文章になるように編集されたそうです。
トークイベントでは「よい移民」が出版されることになったイギリスの社会背景や、翻訳で工夫した部分など興味深い話を聞くことが出来ました。
なかでも「これは移民が書いた本というより、移民と呼ばれる人たちが書いた本」という言葉が印象的でした。執筆者はみな、移民2世や3世。つまりイギリスで生まれ、イギリスの教育を受け、完璧な英語を話すのに見た目や名前から「移民」と呼ばれ続けている人たちです。
白人に囲まれて育ち、考え方も話す言葉も一緒なのにある日友達から「あなたは黒人」と言われ、初めて「私は同じではない」と気づいた女性の話。
才能があるのに、見た目だけでテロリストの役しか与えられない俳優。完璧な英語が話せても、演技では外国訛りを求めらてしまう。
例え「アジア人は働き者」などのポジティブなイメージであっても、それに乗っかっていると結局はステレオタイプを押し付けられることになる、など。
日本で日本語の教育を受け、日本人に囲まれて育った私とは全然違う人生がそこにはありました。しかし、個々のエピソードがとても身近で具体的なので、イギリスの話であるというより、誰にでも起こりうる生活の延長線上の話だとも感じます。
堅苦しくないので、移民について何も知らない人の入門書にとてもいいと思います。そして、私のように「移民について理解があるつもり」の人にも、まだまだ自分の想像力は足りていないと気づく良いきっかけになります。
トークイベント後、太田さんや栢木さんとお話する時間があり、直接感想を伝えることができました。すでに本を読んだ人も、これから読む人も楽しめるイベントだと思います。
(8/20追記)
和歌山市で行われたトークイベントに参加してきました。
サイト「ハーフトーク」を運営し、社会学を研究しているケイン樹里安と栢木さんの対談です。とても面白かったのでイベントレポートを書きました。合わせて読んでみてください。
「よい移民」トークイベントは、次回は8月31日に東京で(詳細)、9月28日に福岡で(詳細)開催されます。今後も関西等でイベント予定があるそうなので、興味ある方は太田さんのTwitterをチェックしてください。
最後に、イベントで紹介されていた2冊のおすすめ本を紹介します。
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
イギリス在住の著者と中学生の息子の日常を綴ったノンフィクション。
日本人親子の目線からの移民生活が見えます。「よい移民」と合わせて読むとさらに面白いとのことなので、私も購入しようと思います。
どうして肌の色が問題になるの? (国際化の時代に生きるためのQ&A 5)
「よい移民」編者のニケシュ・シュクラ共著。子供向けに人種問題をわかりやすく解説しています。Amanzonページの紹介写真でも、ニケシュ・シュクラさんを含む何人かの体験談を読むことができます。
大人向けにはもちろん、「よい移民」をどうぞ。
外国人労働者をどんどん迎え入れている日本で、今読んでおくべき良書だと思います。
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