バーテンダー時代に出会った、おもしろサラリーマンたちの話

↑当時、20代中頃でしょうか。なんでも写真は撮っておくもんですな。

 

若かりし、嗚呼若かりし、若かりし。(一句)

 

大阪のホテルバーで働いていた20代

 

大学卒業後、ホテルバーや日本酒居酒屋など、様々な飲食店で働いておりました。

ええ、劇団員でしたから。深夜バイトがよくってよ。

 

そこで覚えたものは、酒の味。

 

バーテンダーという職業は、孤独な大人たちの独り言を聞く仕事でもあります。

 

今回は今まで経験した数ある接客業の中から、大阪のちょっといいホテルバーで私が出会ったおもしろサラリーマン3連発を、ご紹介します!!

 

ほぼ日手帳を欲しがるリーマン

f:id:hitomicubana:20170118163606j:plain

その人はたまに飲みに来る、推定30代後半~40代のサラリーマン。

 

口癖は

 

「おっしゃるとおり!!」

 

…営業さんかな?

 

その日も、お一人でカウンターに座ってウイスキーを飲んでいた。

 

そしていい感じにほろ酔いになってきたとき、こうつぶやいた。

 

「僕ね…ほぼ日手帳、買おうかどうか迷ってるんですよ…」

 

すぐさま「わー、いいですね!」(てきとう)と返事をする私。

 

実は私も、ほぼ日手帳、そのころ持ってた。

でも、使ってなかった。

 

だからこそわかる。

 

「毎日な~、書くことなんてないんだよな~~。でも、持っときたい~~」

 

という、その気持ち。

 

ほら、ほぼ日手帳ってさ、買うまでに何度もLOFTに足を運んだり、ネットでいろんな人の使い方を見たり、その過程が醍醐味じゃない??

 

言うなれば、

 

買うまでがほぼ日手帳です。

 

みたいな。

 

しかし私はバーテンダー。

 

自分語りより、お客様のお話を聞くのが仕事。

 

お客様のほぼ日手帳にかける思いを「うん、うん」と聞いていた。

 

なかなか、買うかどうかに踏み切れないお客様に、ポロっと言ってしまった本音がこちら。

 

「でも、ほぼ日手帳ってまわりで使ってる人見たことないですよね!」

 

お客様ははっ!と目を見開かれ、そしてこう叫ばれました。

 

 

「おっしゃるとぉおおりッ!!」

 

空き瓶を集めたがるオジサン

f:id:hitomicubana:20170118164055j:plain

 

続いてのお客様は、年の頃は50代後半。

 

ひとりでカウンターに飲みに来る常連さん。顔は怖いが、優しい話し方のおじさんだった。

 

そのお客様には酔うと決まって語る、夢がある。

 

それは、集めた酒瓶をバッキバキに割ってアート作品を作ること。

 

酒瓶といっても一升瓶じゃありません。ウイスキーやジンなどの、透明なボトルに色がついてるやつ。

特に写真のグレンフィデックのような緑のボトルがお気に入りで、家で集めたボトルにライトを当ててはうっとりしているという。

 

ボトルだけでこんなに美しいのだから、老後はこのボトルたちをバッキバキに砕いて、ステンドグラスみたいな作品を作りたいらしい。

 

「でもね~、女房がね~。こんなゴミ、早く捨てなさいって言うのさぁ…」

 

わかる、わかるぞ、女房よ。。

集めたがりの男子とオカンの攻防は大人になっても続くのだ。

 

あれからはや5年。

あのお客様は念願通り、集めた酒瓶をバッキバキにできているのだろうか。

 

記念日に乾杯する若造

f:id:hitomicubana:20170118165238j:plain

 

その「いちげんさん」(初めてのお客様のこと)は、忙しい夜にやってきた。

 

お客様の平均年齢が40~50代のバーで、その人はひどく若く見えた。

 

ここはカクテルもお出しするが、ウイスキーをメインで扱っているので30代のお客様はかなり少ない。

たまに団体で来ても、飲む酒は「ハイボール」「カシスオレンジ」など、酒界ではまだまだ若造の域だ。

 

そのときはカウンターが満席で、ゆっくりお話するヒマもなく、バタバタとおしぼりとメニューを渡した。

するとすぐに、彼は口を開いた。

 

「響の30年、ください」

 

一瞬、耳を疑った。

 

サントリーが出しているブレンデッドウイスキーの最高峰、響(ひびき)30年。

 

シングルモルトの山崎25年と並んで、ここで一番高い酒だ。

 

お値段なんと、1杯8,000円

 

1杯でだじょ~~~。

 

頼む人はいないがボトルを入れると1本20万円である。

 

それでも時々、酔っ払ったサラリーマンたちが

 

「一番高いお酒、ちょうだい!」

 

と言って飲むことはある。

また大変ウイスキー好きなお客様が最後に1杯、ストレートで味わって帰ることも。

(そんなときにコッソリ味見できるのが至福の悦び)

 

でもいくらスーツを着ているとは言えこんな若いお客様が、1杯目から響の30年?

 

(この人、明日、死ぬ気ちゃうやろか…)

 

そう疑いながらも、感情を顔に出さないのがバーテンダー。

 

「かしこまりました」とニッコリ笑って、業務に戻った。

 

その方はゆっくりゆっくり、味わいながらその1杯を飲んでいる。

 

お店が落ち着いたころ、そっと話しかけた。

 

「いかがですか?」

 

若さゆえの緊張した面持ちで彼は答えた。

 

「いやあ…おいしいです。」

 

「お若いのに、ウイスキー、お好きなんですね」

 

「実は。」

 

彼は語り始めた。

 

「今日、僕の30歳の誕生日なんです。

 

前から30になったら、同い年のウィスキーを飲みたいと思っていて。

 

初めて飲みました。おいしいです」

 

あらまあ。

 

なんて素敵なプレゼントだろうか。

 

彼は10年前には手が届かなかった、大人のお酒を飲める自分を噛み締めていたのかもしれない。

 

「それは、おめでとうございます。私も30になったら、自分のお金で飲みたいです」

 

そう微笑んだ私だったが、30になっても絶賛貧乏だったので未だに飲んでいない。

 

彼は、こんな風に過ごした誕生日を絶対に忘れないだろう。

 

そしておいしかったお酒の味とともに、そのとき話した女性バーテンダーのこともチラリと思い出してくれたらいいな、と思う。

 

 働きアリたちも、ひとりでゆっくりできるバーを持っている。

 

朝の満員電車で立ったまま寝ているサラリーマンも、冴えないオジサンも、夜は間接照明に照らされながら1杯のウイスキーを飲んでいるかもしれない。

 

そうやって自分の心を落ち着けて、ときに店員と語らいながら、ひとり思考する時間は大切だ。

 

何より「バーでひとり飲んでる自分」というのがカッコイイ。

 

そこに聞き上手なバーテンダーがいれば、気分は映画の主人公。

 

バカ騒ぎする体力のなくなった大人の方が、上手な気分転換の方法を見つけているかもよ、というお話。

※その他のバーテンダーシリーズはこちら。

バーテンダー時代にお客様から言われた人生の格言

バーテンダー時代に見た「熟年不倫物語」